マーフィの戦い

この映画「マーフィの戦い」は、「ブリット」でダイナミックなカーチェイス映画を撮って、その現代的な感覚と強烈なタッチの演出の冴えをみせたピーター・イエーツ監督の作品だ。

そして、主演が「アラビアのロレンス」「ベケット」「冬のライオン」などの名優ピーター・オトゥールという豪華な顔合わせで、燃えたぎる男の執念を描き尽くした傑作だ。

この映画は、第二次世界大戦末期の南米ベネズエラを舞台に、痛快な男のドラマが展開していく。

まず、イギリス船がドイツの潜水艦に攻撃されて沈没、ボートで逃げようとした乗組員が、みんな殺されてしまう描写は凄絶だが、ただ一人生き残ったマーフィ(ピーター・オトゥール)は、大きな河のそばの伝道病院で原住民の世話をしている女医のヘイドン(シアン・フィリップス)に救われる。

重傷を負ってかくまわれた空軍将校はマーフィに、不時着した飛行機が隠してある場所を教えるが、上陸してきたドイツの潜水艦の兵士たちは、空軍将校を殺し、河を遡っていく。

度重なる残虐行為に復讐の一念を燃えたたせたマーフィは、石油会社の管理人ルイ(フィリップ・ノワレ)に手伝わせ、壊れた飛行機を運び出して修理する。

ぐんと面白くなるのはここからで、どうにか修理できた飛行機で、マーフィが水上を滑走、やっとのことで空に浮かぶまでが、ユーモアたっぷりにハラハラさせる。

そして、河の上をよたよたと飛んで偵察を行ない、隠れている潜水艦を発見し、お手製の火炎びん的な爆弾で攻撃する場面も、実に愉快で痛快だ。

つまり、たった一人で武器らしいものもないのに、あくまでも潜水艦をやっつけてやろうという闘志と冒険心が、この映画のテーマになっているわけで、ジョン・ヒューストン監督の名作「アフリカの女王」と似た趣向とムードなんですね。

こうして絶対に諦めないマーフィは、石油会社が残していったオンボロの機械船で潜水艦に体当たりしようと、戦争が終わったというニュースが入ったのも無視して突進するんですね。

このクライマックスが、トボケた味を含みながら壮絶で、最後には人間の執念の凄まじさが悲劇的に浮かび上がってくる。

表情を何ひとつ変えず、飄々としたオトゥールの演技が一段と冴えわたっていたと思う。

やっぱり、彼はどんな役を演じても、ほぼ完璧にその役を演じ切ってみせる、稀代の名優だなとあらためて実感しましたね。