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レルモントフ・バレー団の持主であり、プロデューサーであるボリス・レルモントフは、バレー界の天才的プロデューサーとして名高いが、いわばバレーの鬼で愛情のない冷い人間として、一座の者から尊敬はされているが、親しまれてはいない。ボリスはロンドンで「火のハート」上演中、二人の新人を発見して一座に契約した。一人は青年作曲家ジュリアン・クラスターで、他の一人はすでに、くろうと芸に達しているバレー・ダンサーで、社交界の令嬢ヴィキイ・ペイジである。二人は一座と共にロンドンからパリへ行き、クラスターは楽長リヴイの助手としてオーケストラ・コーチを受持ち、ヴィキイは群舞のダンサーとして踊った。ところがプリマ・バレリーナのボロンスカヤが、かねて愛し合っていた愛人と結婚すると、踊り手のリュボフ、ボレスラウスキー、装置家のラトフ楽長リヴィ等の祝福をうけたが、恋愛や結婚はバレー芸術の精進に害ありとするレルモントフはパリ興行をかぎりにボロンスカヤを首にした。彼はアンデルセン童話にもとづく新バレー「赤い靴」の上演を企画していたが、音楽が気に入らないので、おクラにしていたのを、クラスターに新に作曲させ女主人公にヴィキイを抜擢することにきめる。クラスターの新曲はレルモントフの気に入ったので、パリを去ってモンテカーロにうつると共に、火の出るような稽古がはじまった。二週間後バレー「赤い靴」は華々しく初演の脚光を浴び、バレリーナ、ヴィキイ・ペイジの名と新人作曲家ジュリアン・クラスターの名は、たちまち世界的となった。二人は稽古中から互に心をひかれ、愛し合う仲となったが、「赤い靴」の成功とヴィキイ・ペイジ売出しに無我夢中になっているレルモントフは、彼の鼻の先での二人の恋愛に気が付かなかった。ヴィキイは「白鳥の湖」「コッペリア」「空気の精」等に次々に主演し、いよいよ名声はあがった。モンテカーロを打上げる前夜リュボフの誕生祝に、一座はヴィル・フランシュへ遠出した。レルモントフはその時、はじめて二人の恋愛を聞いて驚愕した。憤慨した彼は翌晩、クラスターを首切った。そうすることによって彼はヴィキイをバレーに専心させるつもりであった。ところが踊ることが人生の目的であるといっていたヴィキイが、退座して愛人と共にロンドンへ赴いたのでレルモントフは絶望に近い悲嘆を味あわねばならなかった。二人が結婚したという報せを、パリで受けた時、彼は危く自暴自棄に陥るところであったが、ボロンスカヤがパリにいることを思い出し、満足は得られぬと知りつつ彼女を一座に再び迎えた。またモンテカーロに公演中、ヴィキイが叔母のネストン夫人に会いに、モンテカーロへ来たのを捕え、レルモントフは再び彼女を「赤い靴」の舞台に踊らせる契約をした。リュボフ、ラトフ等一座の幹部連は狂喜して彼女を迎え、一座は生きかえったように活気付いた。「赤い靴」再演の晩、それはロンドンでジュリアン・クラスターが自作のオペラ「キューピッドとサイケ」初演の夜で、作曲者自ら指揮する筈であった。クラスターはその大切な初演を犠牲にして、モンテカーロへ飛来し、ヴィキイがレルモントフ一座の舞台で踊ることをとめようとした。ヴィキイは愛する夫と、自分の芸を育て上げてくれる世界で只一人のプロデューサーとの板ばさみになった。「赤い靴」の少女の扮装をし赤い靴をはいていた彼女はジュリアンを追い返した。開幕--舞台に出ると思いきや、彼女は狂人のように表へ走り出た。そして露台から身をひるがえして飛び下りた。クラスターが乗るべき列車が轟然と走って来た。クラスターが駈けつけた時、朱けにそまったヴィキイは虫の息であった。この報せをうけたレルモントフは、ペイジ嬢は今夜も、そしていつの夜も踊れない、併し今夜彼女は「赤い靴」に踊るつもりだった、だから私達は彼女が踊っているものとして「赤い靴」を上演します、と挨拶してヴィキイ・ペイジ無しで「赤い靴」は演ぜられ、虫の息でヴィキイは赤い靴をぬがして頂戴と云い、クラスターがぬがせてやるとともに、その霊は昇天した。
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作品コメント
レルモントフ・バレー団の持主であり、プロデューサーであるボリス・レルモントフは、バレー界の天才的プロデューサーとして名高いが、いわばバレーの鬼で愛情のない冷い人間として、一座の者から尊敬はされているが、親しまれてはいない。ボリスはロンドンで「火のハート」上演中、二人の新人を発見して一座に契約した。一人は青年作曲家ジュリアン・クラスターで、他の一人はすでに、くろうと芸に達しているバレー・ダンサーで、社交界の令嬢ヴィキイ・ペイジである。二人は一座と共にロンドンからパリへ行き、クラスターは楽長リヴイの助手としてオーケストラ・コーチを受持ち、ヴィキイは群舞のダンサーとして踊った。ところがプリマ・バレリーナのボロンスカヤが、かねて愛し合っていた愛人と結婚すると、踊り手のリュボフ、ボレスラウスキー、装置家のラトフ楽長リヴィ等の祝福をうけたが、恋愛や結婚はバレー芸術の精進に害ありとするレルモントフはパリ興行をかぎりにボロンスカヤを首にした。彼はアンデルセン童話にもとづく新バレー「赤い靴」の上演を企画していたが、音楽が気に入らないので、おクラにしていたのを、クラスターに新に作曲させ女主人公にヴィキイを抜擢することにきめる。クラスターの新曲はレルモントフの気に入ったので、パリを去ってモンテカーロにうつると共に、火の出るような稽古がはじまった。二週間後バレー「赤い靴」は華々しく初演の脚光を浴び、バレリーナ、ヴィキイ・ペイジの名と新人作曲家ジュリアン・クラスターの名は、たちまち世界的となった。二人は稽古中から互に心をひかれ、愛し合う仲となったが、「赤い靴」の成功とヴィキイ・ペイジ売出しに無我夢中になっているレルモントフは、彼の鼻の先での二人の恋愛に気が付かなかった。ヴィキイは「白鳥の湖」「コッペリア」「空気の精」等に次々に主演し、いよいよ名声はあがった。モンテカーロを打上げる前夜リュボフの誕生祝に、一座はヴィル・フランシュへ遠出した。レルモントフはその時、はじめて二人の恋愛を聞いて驚愕した。憤慨した彼は翌晩、クラスターを首切った。そうすることによって彼はヴィキイをバレーに専心させるつもりであった。ところが踊ることが人生の目的であるといっていたヴィキイが、退座して愛人と共にロンドンへ赴いたのでレルモントフは絶望に近い悲嘆を味あわねばならなかった。二人が結婚したという報せを、パリで受けた時、彼は危く自暴自棄に陥るところであったが、ボロンスカヤがパリにいることを思い出し、満足は得られぬと知りつつ彼女を一座に再び迎えた。またモンテカーロに公演中、ヴィキイが叔母のネストン夫人に会いに、モンテカーロへ来たのを捕え、レルモントフは再び彼女を「赤い靴」の舞台に踊らせる契約をした。リュボフ、ラトフ等一座の幹部連は狂喜して彼女を迎え、一座は生きかえったように活気付いた。「赤い靴」再演の晩、それはロンドンでジュリアン・クラスターが自作のオペラ「キューピッドとサイケ」初演の夜で、作曲者自ら指揮する筈であった。クラスターはその大切な初演を犠牲にして、モンテカーロへ飛来し、ヴィキイがレルモントフ一座の舞台で踊ることをとめようとした。ヴィキイは愛する夫と、自分の芸を育て上げてくれる世界で只一人のプロデューサーとの板ばさみになった。「赤い靴」の少女の扮装をし赤い靴をはいていた彼女はジュリアンを追い返した。開幕--舞台に出ると思いきや、彼女は狂人のように表へ走り出た。そして露台から身をひるがえして飛び下りた。クラスターが乗るべき列車が轟然と走って来た。クラスターが駈けつけた時、朱けにそまったヴィキイは虫の息であった。この報せをうけたレルモントフは、ペイジ嬢は今夜も、そしていつの夜も踊れない、併し今夜彼女は「赤い靴」に踊るつもりだった、だから私達は彼女が踊っているものとして「赤い靴」を上演します、と挨拶してヴィキイ・ペイジ無しで「赤い靴」は演ぜられ、虫の息でヴィキイは赤い靴をぬがして頂戴と云い、クラスターがぬがせてやるとともに、その霊は昇天した。