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第一次世界大戦中(一九一六年)敵情てい察の任務を持つマレシャル中尉とポアルディウ大尉を乗せたフランスの飛行機は、ドイツの飛行隊長ラウフェンシュタインに撃墜されドイツ軍の捕虜となった。マレシャルはパリの機械工の出、ポアルディウは貴族、そして国こそ違うが同じく貴族であるラウフェンシュタインは二人を捕虜扱いにせず不運な勇士として食卓にさえ招待するのであった。彼等が収容されたハルバハ・キャンプの部屋には、ロザンタァルというフランスに帰化したユダヤ人の金持の息子もいた。彼のもとに、日毎送られて来る慰問品で同室の人々はぜいたくな食事をとることが出来た。貴族出で終始白い手袋をはめているポアルディウをマレシャルは仲々信用しなかったが、脱走するための地下穴を掘る件に関してはみんなが協力した。ある夜収容所で演芸会が催された時、先に占領されていたドウオモンが友軍が奪回したとのニュースを聞いたマレシャルは興奮のあまり舞台に飛び出して、この旨を観客に知らせたので大騒ぎとなった。彼はそのかどで一時営倉に入れられてしまった。脱走の計画が着々実現可能な折も折、残念なことに彼らはスイス国境に近いシャトオ収容所に移転されてしまった。そこで彼等を迎えたのは負傷して収容所長に後転したラウフェンシュタインだった。彼は同じ貴族でしかも武人であるボアルディウに再会出来たのを非常に喜んだ。貴族階級というものがやがてこの世界から姿を消す悲惨な運命を背負っているということも、二人のわびしい心には通じていた。これが更に二人を固く結んだ。一方マレシャルとロザンタァルはそのころ脱走計画をたてていた。ラウフェンシュタインは、彼等を逃がすため城内を逃げまわっているボアルディウを規則と業務遂行のため彼の脚をねらって射ったが、運悪く急所にあたりボアルディウはラウフェンシュタインに見送られながら永遠の眠りについた。ボアルディウのおかげで運よく脱走したマレシャルとロザンタァルは疲労と空腹のため一時は口げんかもしたが、山地を歩いているうち、とある田舎家にたどりついた。家には母と子供がたった二人きりで住んでいた。子供は見ずしらずの敵国人たる彼等を慕い始め、心やさしいエルザも彼等を厚くもてなし、二人をかくまってやった。マレシャルは次第にこのエルザが好きになった。良く通じない言葉でも彼等の心は互に接近していったが、脱走途中である二人はやさしいエルザとも別離しなければならなかった。彼はエルザに戦いが終ったら再会しようと約束してロザンタァルと共にスイス国境に向かった。雪の山地を二人は強歩しとうとうスイス国境の寸前まで来てしまった。二人の姿を見つけた監視兵は射撃を開始したが、かけ出した二人はすでに国境線を突破していた。射撃の音はやんだ。白い雪でおおわれたスイスの山腹をマレシャルとロザンタァルの黒い二つの影が進んでいく。
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作品コメント
第一次世界大戦中(一九一六年)敵情てい察の任務を持つマレシャル中尉とポアルディウ大尉を乗せたフランスの飛行機は、ドイツの飛行隊長ラウフェンシュタインに撃墜されドイツ軍の捕虜となった。マレシャルはパリの機械工の出、ポアルディウは貴族、そして国こそ違うが同じく貴族であるラウフェンシュタインは二人を捕虜扱いにせず不運な勇士として食卓にさえ招待するのであった。彼等が収容されたハルバハ・キャンプの部屋には、ロザンタァルというフランスに帰化したユダヤ人の金持の息子もいた。彼のもとに、日毎送られて来る慰問品で同室の人々はぜいたくな食事をとることが出来た。貴族出で終始白い手袋をはめているポアルディウをマレシャルは仲々信用しなかったが、脱走するための地下穴を掘る件に関してはみんなが協力した。ある夜収容所で演芸会が催された時、先に占領されていたドウオモンが友軍が奪回したとのニュースを聞いたマレシャルは興奮のあまり舞台に飛び出して、この旨を観客に知らせたので大騒ぎとなった。彼はそのかどで一時営倉に入れられてしまった。脱走の計画が着々実現可能な折も折、残念なことに彼らはスイス国境に近いシャトオ収容所に移転されてしまった。そこで彼等を迎えたのは負傷して収容所長に後転したラウフェンシュタインだった。彼は同じ貴族でしかも武人であるボアルディウに再会出来たのを非常に喜んだ。貴族階級というものがやがてこの世界から姿を消す悲惨な運命を背負っているということも、二人のわびしい心には通じていた。これが更に二人を固く結んだ。一方マレシャルとロザンタァルはそのころ脱走計画をたてていた。ラウフェンシュタインは、彼等を逃がすため城内を逃げまわっているボアルディウを規則と業務遂行のため彼の脚をねらって射ったが、運悪く急所にあたりボアルディウはラウフェンシュタインに見送られながら永遠の眠りについた。ボアルディウのおかげで運よく脱走したマレシャルとロザンタァルは疲労と空腹のため一時は口げんかもしたが、山地を歩いているうち、とある田舎家にたどりついた。家には母と子供がたった二人きりで住んでいた。子供は見ずしらずの敵国人たる彼等を慕い始め、心やさしいエルザも彼等を厚くもてなし、二人をかくまってやった。マレシャルは次第にこのエルザが好きになった。良く通じない言葉でも彼等の心は互に接近していったが、脱走途中である二人はやさしいエルザとも別離しなければならなかった。彼はエルザに戦いが終ったら再会しようと約束してロザンタァルと共にスイス国境に向かった。雪の山地を二人は強歩しとうとうスイス国境の寸前まで来てしまった。二人の姿を見つけた監視兵は射撃を開始したが、かけ出した二人はすでに国境線を突破していた。射撃の音はやんだ。白い雪でおおわれたスイスの山腹をマレシャルとロザンタァルの黒い二つの影が進んでいく。