舞台恐怖症

大女優シャーロットは、夫の殺人に巻き込まれ、自分を慕うジョナサンのもとへやって来る。
ジョナサンも殺人の疑いがかかったため、同じ演劇学校の友人のイブの元に身を隠す。

イブは真相をつかもうと、メイドになりすまし、シャーロットの家に潜り込む。
そこで、次々に怪しい臭いをかいでいく--------。

この物語は、大女優のシャーロットが、夫の殺人現場から彼女に愛を抱くジョナサンの所に現れるところから始まる。

殺人の疑いのかかったジョナサンは、同じ演劇学校のイブの元に身を寄せ、彼の無実を立証しようと、シャーロットのメイドになりすます。

そこで、イブの父親も手伝って真相をつかんでいくという展開になる。
最後、追い詰められたジョナサンが、イブの命を追って舞台を駆け巡る。

大道具や小道具、それにヒッチコック・シャドウなども効果的に使われて、迫真的な場面を作っている。
また、プロットの転機になるのは、シャーロットが、当初、身に着けていた血のついたドレスだ。

イブの父親のアイディアで、同じようにドレスに血のついた人形を、子供にもってやらせ、シャーロットはその人形を見て、めまいがするシーンがある。
これも、ヒッチコック映画ではお馴染みのシーンですね。

しかし、この映画は全体が、本物が偽物を演じ、偽物が本物を演じる。一種のメタ演劇になっているところが、とても面白い。

メタ演劇の典型は、”殺人”であるが、そこでは真犯人と思われる人物をモデルにした芝居をわざと上演し、犯罪の証拠を取ろうとする。

ここでは、そこまでのメタ性を持ってはいない。
しかし、メイドに変装し、シャーロットの近くに侵入したり、人形の血が、証拠のドレスの血とダブルイメージになったり、犯人が真実と嘘の両方を話しているといったことは、十分に”映画内演劇”の薫りを発散している。

そして、そればかりではなく、この冒頭にあるナレーションと映像が、そもそも映画全体に対する一種の演技なので、観る者は後で、そのことがわかるような仕掛けになっているのだ。

マレーネ・ディートリッヒの舞台女優が圧巻。けだるいような歌もナイス。彼女の見事な悪女ぶりで映画が引き締まっていた。どんな作品でもヒッチコックの語り口の巧さはかわらない。ただし、ラストの謎ときは禁じ手だ。観客は冒頭での男の告白の映像をしっかり覚えていて、それをベースにしてあれこれ推理をしていたのに、そのベースが嘘だったなんて唖然呆然！ヒッチコックに騙されたようなものだ。これはルール違反で大減点。