熱いトタン屋根の猫 （期間限定）

この映画「熱いトタン屋根の猫」は、「欲望という名の電車」「バラの刺青」などのアメリカを代表するブロードウェイの劇作家テネシー・ウィリアムズのヒット舞台劇の映画化作品で、舞台版は「エデンの東」「波止場」のエリア・カザンが演出に当たっていましたが、映画版はリチャード・ブルックスが脚色も兼ねて監督に当たりました。

アメリカ南部の大農園主(パール・アイブス)の莫大な財産を巡って、一家の間にそれぞれの思惑を抱いて、欲望が渦巻いていました。

一家の次男ブリック(ポール・ニューマン)と妻のマギー(エリザベス・テイラー)は、親から最も信頼されていましたが、ブリックは足を怪我した、身体的な負い目と妻との葛藤の日々の中で、酒に溺れ、マギーとも夫婦生活をしようとしない焦燥の日々を送っています。

原作では、このブリックという男の同性愛者的な描写が、かなり色濃く出ているのに対して、映画化作品では、製作当時のヘイズ・コードの制約がかなりあって、テネシー・ウィリアムズが描いた同性愛の問題や性への不満のギラギラするような表現は、リチャード・ブルックスという野心家の監督をもってしても、結局、生煮えの中途半端なドラマになってしまい、我々観る者の方が欲求不満になってしまうのです。

財産争いと夫との関係への焦燥の狭間で苦悩するマギーは、まるで、”熱いトタン屋根に追いつめられた猫”のような存在になってしまうのです。
そして、当主の誕生日のパーティは異様な雰囲気のうちに進み、ブリックとマギーに財産を譲る事を告げるのですが--------。

ピューリッツアー賞やニューヨーク批評家賞に輝いたテネシー・ウィリアムズの、この695回の上演記録を持つ名戯曲は、同性愛、夫婦愛、遺産相続などの辛辣な問題を扱っていて、単に、”熱いトタン屋根の猫”であるマギーひとりの苦悩を描いたものではなく、彼女を取り囲む、遺産目当てが明らかな長男夫婦を含む一家の人々の性格、人間模様を赤裸々に描き切った優れた”人間の愛憎劇”であっただけに、この映画化作品の中途半端さが、今となっては残念でなりません。

演技的には、主演のエリザベス・テイラーが、このマギーの演技で演技派女優へと脱皮し、後に「バターフィールド8」と「バージニア・ウルフなんかこわくない」で、二度のアカデミー主演女優賞を受賞するまでの名女優になっていきましたね。