境界のRINNE(全40巻)

高橋留美子といえば、「うる星やつら」「メゾン一刻」「らんま１／２」「人魚の森」などヒット作を連発した、週刊少年サンデーでも最も成功した漫画家と言っていいだろう。
代表作はいずれもTVアニメ化大ヒット、単行本の世界累計発行部数は1995年に1億部、2017年には2億部を突破したという。

コメディタッチのものが多いが「人魚の森」は、人魚の肉を食べると死ぬか不老不死になるという、シリアスかつホラー的な作風で、他の作品とは異質さが目立つ。
不死身で思い当たるのは、ギリシャ神話「イリアス」で冥界の川スティクスに体を浸され不死身となったアキレウス（踵だけ浸されずアキレス腱の語源となった）や、ドイツ英雄叙事詩「ニーベルンゲン」で竜血を浴びて不死身となったジークフリート。いずれも英雄譚でホラー的要素はない。

この「境界のRINNE」は2009年～2017年まで連載された。
死神少年 六道りんねと、霊感少女 真宮桜が主人公。
六道輪廻というからには仏教的観念から引用されているのだろうが、何故か死神少年ということになっている。　主に浮遊霊等を成仏させるという話。


霊魂の輪廻転生の思想自体は古代インド（紀元前13世紀頃）のバラモン教以前からあると考えられるが、現在でもインドで続くカースト制度はこのバラモン教の輪廻思想に基づいている。
バラモン（司祭）階級はバラモン、クシャトリア（王侯貴族）はクシャトリアの血筋に繰り返し転生してくるという、血統に縛り付けられた転生観念となっており、霊魂機械論的とも言える非常に奇妙な思想である。
仏教はそのカースト批判から勢力を持ったが、インドでは影響は続かず、東国にて深く信仰されたのが興味深い所である。

人生で徳を積んだ魂や、地位が高くても堕落した魂が輪廻転生するならば、バラモンのような硬直した血縁システムではなく、六道輪廻の様に動的に霊魂が世界を流転する形になっていなければ不合理であろう。そうでなければ人生自体の意味が無くなってしまう。

AIの研究に於いても、AI開発の先駆者ミンスキーやマッカーシーは、AIを作る為にはまず人間の心の働き、哲学を知ることが必要であり、それには仏典が最高のテキストであるとしている。
つまり、「心」の何たるかの深淵を追求した釈迦の思想が、世界で最も進んだ思想だったことが、現代になってやっと判明したのである。